ミルクのホモジナイズと心臓病
現在心臓病がはびこる原因としてホモジナイゼーションを挙げる俗説が広く受け入れられています。この仮説は、カート・A・オスター医師がつくり、1960年代初期から1980年 代まで研究されてきました。オスターは健康な血管と病的血管を構造と生化学的に比較研究し、人体の至る所に分散して存在する細胞膜の多くにある必須脂肪酸 の一つプラズマロゲンを調査した。プラズマロゲンは、心臓細胞を包む膜と血管壁の細胞で主要な成分です。また、神経線維を包んでいるミエリン鞘とその他の 若干の組織にもありますが、それ以外の人体には見られないものです。
オスターは心臓と血管組織にあるはずのプラズマロゲンが全くないことがあるのを発見した。アテローム心臓病が血管壁の小さな損傷や傷で始まることは良く知られている。オスターは、最初の傷はプラズマロゲンが血管の細胞膜から消失することで発生し班の形成に至ると考えた。
最大の疑問は、何が心筋と血管壁の組織のプラズマロゲンをなくさせるかだった。オスターは、プラズマロゲンを酸化したり変化させることのできる酵素、キサンチン・オキシダーゼ(XO) がプラズマロゲンを別の物質に変えてあたかもプラズマロゲンが消失したかのように見せているに違いないと思った。XOは体内で作られるが、XOとプラズマロゲンが同じ組織に見られることは通常ないため、心臓にはプラズマロゲンはあるがXOは見られない。オスターは、1974年に発行された論文で肝臓と小腸の粘膜にXOがあることは、これらの部分にプラズマロゲンがないことのごく自然な直接の原因であると論じている。もしXOが何らかの方法で心臓と心臓の血管に移動したとしたら、病的心臓の組織サンプルや死後組織のサンプルにプラズマロゲンがないことを説明できるだろう。
死後組織に見られるXOはどこから来たのか。正常な人の血清(血液の液体成分)にはXOは ない。オスターと同僚のロスは二つの可能性を考えた。一つは肝臓細胞で、急性肝臓病の患者が血清中のキサンチン・オキシダーゼが増え、慢性肝臓病の患者で は若干の増加がある。もう一つは牛乳で、「心臓病の男性患者の血液には牛乳の抗体がかなり高くなっているのが見られるので現在調査中である2」。
牛乳は、XOレベルの高いものでは最も広く飲まれているものです。完全に加熱すればXOは破壊されるが、パスチャライズでは約半量のXOが破壊されるに過ぎない。オスターは、次にXOと牛乳の関係、血管と心筋にプラズマロゲンがなくなる関係を調べている。
彼は人類が牛乳を10,000年近く飲んできて牛乳と乳製品が多くの食文化であることを承知している。しかし、アテローム性動脈硬化は最近のもの。これらの事実は牛乳と乳製品が原因であるとするには矛盾がある。だが、牛乳の均質化は、1930年代にアメリカで、1940年代には世界的になっており、それと軌を一にしてアテローム性動脈硬化心臓病が増えてきている。オスターは、牛乳の均質化が何らかの理由でキサンチン・オキシダーゼの生物学的吸収を増加させていると理論付けている。
オスターによると、殺菌し、均質化していない牛乳のXOは脂肪球の膜外部にあって消化中に分解される。生の牛乳についてもXOは同じように消化される。均質化で脂肪球が元のサイズのほんの一部の大きさになるためXOは均質化プロセスでできる小さな脂肪球の新しい外膜に包まれることを前提としている。ホモジナイズ牛乳を飲むと、この新たな膜がXOを消化酵素から守り、脂肪球の中で無傷のままXOが腸壁を通り循環系へ入ると確信した。彼はこの脂肪球をリポゾームと呼びこのXOを運ぶリポゾームがそのまま吸収されたと強く主張した。循環系に入った後毛細管に行きここでリポ蛋白膜がリポ蛋白分解酵素リーパーゼによって消化されXOが遊離して体に吸収されるがその一つに心臓と血管組織があってプラズマロゲンと反応して破壊すると考えられる。
要するに、オスターの理論は心臓病の原因をコレステロールではなく別のメカニズムが原因で以下のように起こるとしている。
- ホモジナイゼーションは、「有害な」キサンチン・オキシダーゼ(XO)という酵素をそのまま吸収されるリポゾームの中に包み込む。
- XOが酵素の作用で遊離し心臓や血管組織に至り、プラズマロゲンという特殊な保護膜脂質を破壊して血管に病変を起こし病班ができる。
キサンチン・オキシダーゼ/プラズマロゲン仮説の賛同者も反対者も確たる証拠を提示できなかった。だが、より多くの科学レビューがオスターの仮説を疑問視していていくつか矛盾する点を発見した。
オスター理論の根本的誤りは、脂肪球とリポゾームの違いにある。脂肪球には基本的にトリグリセリドと蛋白、コレステロール、リン脂質、脂肪酸からなる脂質二重幕に包み込まれたコレステロールがある。これはミルクの中で1000ナノメーターから10,000ナノメーターの広範な大きさでおきている。 ホモジナイズした後は、平均脂肪球サイズは、約500ナノメーターで200ナノメーターから2000ナノメータの範囲にある。
オスターは、牛乳のホモジナイゼーションを「消化器4に不自然に小さいものを押し付ける操作」だと考えた。羊の乳脂肪球は、「非常に小さく...。[従って]消化し易い」と報告されており、現実にこのミルクは「自然にホモジナイズされた5」と書かれている。羊の乳の乳脂肪球は分離せず脂肪分は牛のものの2倍もあるのにバターを作ることはできない。ヤギの乳の脂肪球も同様に小さい。ヤギの乳もこの理由で牛乳よりも消化しやすいと考えられている。だから、小さい乳脂肪球に不自然なことは何もない。
消化中に全てのサイズの脂肪球が分解されてそこにある何十万というトリグリセリドと酵素が放出される。(乳脂肪球には、7種以上の酵素がありXOはそのうちの一つ。その他の主たるものは、NADH2,イオドニトロテトラゾリウム、5-ヌクレオチダーゼ、アルカリ・フォスファターゼ、ガンマーグルタミルトランスペプチダーゼがある)これらの酵素はアミノ酸に分解され(酵素は特殊蛋白)トリグリセリドは脂肪酸とモノグリセリドに分解される。
オスターはこれらの均質化ミルク中の小さな乳脂肪球をリポゾームと呼んだが、リポゾームの基本構成成分は全く別物であると指摘する研究者が何人もいる。リポゾームは、大きさが200ナ ノメーターかそれ以下のものが中心であって複雑な蛋白成分は入っていない。リポゾームは自然には発生せず、研究者によって薬などの成分を細胞に運ぶなどの ために開発されたものでリン脂質の層からなっておりリンの層は外側で脂質の層は内側にある。この層には脂肪酸ではなく水様の液体が包み込まれている。リポ ゾームは消化中に分解されない。だから、研究者はリポゾームを内服薬を細胞に運ぶものとみなしている。ロスの同僚であるD・J・ロスは、1980年の研究でリポゾームに捕捉されたインシュリンが糖尿気味のラット6の血糖値を実際に下げたと報告している。ロスは、大きな分子が吸収されうることを証明するものだと主張した。
A・J・クリフォード率いる研究チームがオスターの理論を慎重に検証した。1983年に出された論文7で、 「ミルクの均質化過程でリポゾームは形成されないし、腸管壁からの無傷のリポゾーム吸収もない」と書いている。また、主要な研究論文を調べても「食事中の キサンチン・オキシダーゼの吸収は見られない」とクリフォードは報告している。クリフォードの研究チームは、豚と人にミルクの入ったものと入っていないも のを与えて血清キサンチン・オキシダーゼの活性がないことを示す研究8,9を引用している。更に、「均質化した乳製品を摂取することと血中のキサンチン・オキシダーゼ活性度の関係は確立されていない」と記している。
ミルクやクリームではなく、コーンオイルを与えられた場合に血清キサンチン・オキシダーゼの増加が見られる研究10さえあった。オスターは、均質化が1930-1940年代に広く普及し、この同じ時期に心臓病が急増していると主張しているが、この頃はちょうど植物油が普及した時期でもある。(もしオスターが正しいとすれば、近代ミルクを飲んだ者のみが心臓病に罹ることになり、明らかに誤りである。)
ロ スのインシュリンに関する研究についてクリフォードは、最近のほかの人の評価では、インシュリンの現象は採用された手法によるもので、細胞にインシュリン が運ばれたためではないと論じている。こうしてオスターの公開した証拠は、間違っていることが分った。(研究者たちは実際にリポゾームを人間に使用してイ ンシュリンを口から取り込んで細胞に運ぼうとしたが成功しなかった。しかし、ゴーシェ病の治療に必要な酵素をリポゾームで運ぶことには成功している。)ク リフォードのチームがロスの1980年の論文にあった電子顕微鏡の写真を調べたところ、リポゾームの著名な専門化が報告している典型的リポゾームの構造と一致しなかったと報告している11。
オスターは後半の理論でXOがプラズマロゲンを破壊すると述べている。しかし、クリフォードのチームは、「生理的環境でプラズマロゲンが消失するのにキサンチン・オキシダーゼが果たす直接の役割は確立されていない」と述べている。彼らは、牛のキサンチン・オキシダーゼを大量(large dose)に皮下注射して調べた動物実験12を引用している。この処置で血管、冠状組織でプラズマロゲンをなくすることができなかったし、斑の形成も起こらなかった。
オスターの理論が誤りであることが分ったとしても、均質化プロセスは無害であるということにはならない。均質化中に脂肪球の表面積が膨大なものになる。元の脂肪球膜が無くなりカゼインや乳糖蛋白が大量に取り込まれた新たな膜が形成される13。これが近代加工ミルクのアレルギーを増やしている可能性がある。
About the Author
Mary G. Enig, PhD is the author of Know Your Fats: The Complete Primer for Understanding the Nutrition of Fats, Oils, and Cholesterol, Bethesda Press, May 2000. Order your copy here: www.enig.com/trans.html.
参照文献
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- Oster, K., and Ross, D. “The Presence of Ectopic Xanthine Oxidase in Atherosclerotic Plaques and Myocardial Tissues.” Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine, 1973.
- Ibid.
- Oster KA. Plasmalogen diseases: a new concept of the etiology of the atherosclerotic process. American Journal of Clinical Research 1971:2;30-35.
- Sheep’s milk
- Ross DJ, Sharnick SV, Oster KA. Liposomes as proposed vehicle for the persorption of bovine xanthine oxidase. Proceedings for the Society of Experimental Biology and Medicine. 1980:163;141-145.
- Clifford AJ, Ho CY, Swenerton H. Homogenized bovine milk xanthine oxidase: a critique of the hypothesis relating to plasmalogen depletion and cardiovascular disease. American Journal of Clinical Nutrition. 1983:38;327-332.
- McCarthy RD, Long CA. Bovine milk intake and xanthine oxidase activity in blood serum. Journal of Dairy Science. 1976:59;1059-1062.
- Dougherty TM, Zikakis JP, Rzucidlo SJ. Serum xanthine oxidase studies on miniature pigs. Nutrition Report International. 1977:16;241-248.
- Ho CY, Crane RT, Clifford AJ. Studies on lymphatic absorption of and the availability of riboflavin from bovine milk xanthine oxidase. Journal of Nutrition. 1978:108;55-60.
- Bangham AD. Physical structure and behavior of lipids and lipid enzymes. Advances in Lipid Research. 1963:1;65-104.
- Ho CY, Clifford AJ. Bovine milk xanthine oxidase, blood lipids and coronary plaques in rabbits. Journal of Nutrition. 1977:107;758-766.
- http://www.foodsci.uoguelph.ca/dairyedu/homogenization.html.
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